2024年ごろ刷新される紙幣に肖像画が使われる人物をご存知でしょうか。樋口一葉に代わり五千円札の「顔」となる人物こそ、津田塾大学の創設者である津田梅子です。歴史の授業などでも取り上げられる日本女子教育の礎を築いた人物でもあります。そんな彼女の教育理念が今も受け継がれるこの大学では数々の社会で活躍する女性が育ち、女性の社会進出に大きく貢献してきました。伝統ある英語教育と充実した少人数制の授業が特徴のこの大学での学びや生活はどのようなものなのでしょうか。
津田塾大学は最も歴史ある女子大の一つです。建学の理念を保ちながらも現代の社会状況に対応した教育を目指し、今なお高水準な教育を提供しています。政治などの面でも著名人を輩出しており日本の女子教育をリードしてきた存在だと言えるでしょう。
津田塾大学の前身は1900年に津田梅子によって創立された「女子英学塾」です。女性の地位向上、「男性と協同して対等に力を発揮できる女性の育成[i]」を目指した女子高等教育機関の先駆け的な存在の一つでした。津田梅子による建学の精神は、他に以下のようなものがあります。
「学生の主体的・能動的な学び」
「個性の尊重と少人数教育」
「英語の習得と、それにとどまらない広い視野を持った人材の育成」[ii]
これら創設当時の理念はそのままに、現在、2030年に向けて使命として掲げるのは「変革を担う女性の育成[iii]」です。現代社会の変化に対応しながら、新しい時代の開拓者となることが学生には求められています。
特に英文学や国際関係論の分野で優れた実績を残し、女性の社会進出に貢献してきました。卒業生には官僚などが多く、男女雇用均等法などの法整備の際にも活躍したことでも知られています。元文部大臣の赤松良子さんや女性初の内閣官房長官となった森山眞弓さん、女性初の外交官となった山根敏子さんなど政治・外交における著名人も輩出しました。
その他、研究や文学、マスコミ・芸能関係でも著名な卒業生がいます。女性初の東大教授となった中根千枝さんや翻訳家の戸田奈津子さん、ディー・エヌ・エーの代表取締役の南場智子さん、NHKアナウンサーの廣瀬智美さんらOGが各方面で活躍しています。
津田塾大学は2学部6学科を有する小さな大学です。そのため少人数教育が可能で、熱意さえあれば丁寧な教えを受けることができるでしょう。またキャンパスは東京の郊外にあり自然豊かでのどかな環境で学習することができます。
学部は学芸学部と総合政策学部があり、前者は小平キャンパスを、後者は千駄ヶ谷キャンパスを使用しています。それぞれの学部について見ていくと、学芸学部には英語英文学科、国際関係学科、多文化・国際協力学科、数学科、情報科学科が、総合政策学部には総合政策学科があります。
学部ごとの定員は、学芸学部が580人、総合政策学部が110人です。学科の内訳を見ていくと、学芸学部は英語英文学科が220人、国際関係学科が200人、多文化・国際協力学科が70人、数学科と情報科学科が45人ずつとなっています。
キャンパスは3.1でも述べたように小平と千駄ヶ谷にあります。小平キャンパスがいわゆる本キャンに当たり西武国分寺線の鷹の台駅から徒歩8分、JR武蔵野線の新小平駅から徒歩18分の場所に位置しています。都心から離れた場所にあることから分かるように自然豊かでのどかな環境が特徴です。水遊び場やグラウンドがあり地域の子供たちが活動している姿も見られます。また近くの公園で新歓期にお花見をするサークルもあるそうです。一方で都会にはない分ちょっとした買い物などには不便な面もあります。
千駄ヶ谷キャンパスはJRの千駄ヶ谷駅から徒歩1分、都営大江戸線国立競技場駅から1分の場所にあり、こちらは都心ならではのアクセスの良さが特徴的です。都会的で綺麗な校舎には開放的な学習スペースやカフェテリアがある他、すぐ近くにある新宿御苑や東京スカイツリーも見渡す見渡しの良い屋上庭園でくつろぐこともできます。
この章では各学部・学科について詳しく記していきます。
総合政策学部
授業の特徴としては何より少人数制であること、それゆえ先生との距離も近く丁寧な指導が受けられることが挙げられます。また、学科に関係なく様々な分野に関する授業を取ることが可能なので、専攻分野だけでなく興味のある分野についても知見を広げることができます。
資格については、各学科で中学校・高等学校教諭の教員免許の取得が可能です。具体的には、英語英文学科では英語、国際関係学科では中学の英語や社会、高校の英語と地理歴史・公民、数学科では中学・高校の数学と高校の情報、情報科学科でも中学・高校の数学と高校の情報、といったように学科に関連する科目で免許取得が可能です。
名物行事は学園祭にあたる「千駄ヶ谷キャンパス祭」と「津田塾祭」です。千駄ヶ谷キャンパス祭は毎年6月に千駄ヶ谷キャンパスで総合政策学部の学生が中心となって行われます。今年で3回目を迎え、学生有志が主体となった企画や大学と連携している自治体による展示、キャンパス周辺の飲食店の出店、また近隣の千駄ヶ谷駅による駅員体験などが行われています。津田塾祭は10月中旬に小平キャンパスで3日間にわたって開催されます。部活やサークル・学科など学生有志による企画・ステージや模擬店、また俳優などによるトークショーが行われるほか、アーティストによるライブ、受験生の相談に乗る「受験生カフェ」、更に今年は津田梅子の5000円札肖像画の採用を記念した学長による津田梅子に関する講演会等も行われます。
どの学科の学生も履修することができ、毎年人気があるのは「スポーツ心理学」の授業です。毎年1人のアスリートに焦点を当てながら、そのアスリートの心理状態やスポーツの意味について考察していくという非常にユニークなものになっています。授業内で風景構成法を行って自分の心理状態について考えるなど学生が楽しめる内容も含んでいるそうです。その他にも、文化とコミュニケーションの相互関係について学び異なる文化集団で他者と良好な関係を築くために必要なことを考える「異文化コミュニケーション理論」(講義は全て英語で行われます!)、開発途上国の保健状況を学び貧困や健康格差の問題について考える「国際保健」、スマートフォンのアプリケーションなどデジタルメディアについて講義で学び実際にプログラミングまで行う「マルチメディア」、性について学ぶ「ヒューマンセクソロジー」、家族の歴史や様々な家族の在り方について学ぶ「家族論」などがあります。また、テレビなどでも活躍している萱野稔人氏は総合政策学部の部長を務めており、哲学の授業も持っているそうです。
ここでは簡単に入試情報について記していきます。入試方法によって受験できる学科が異なるため確認が必要です。東京の中でもトップクラスの女子大の一つであり、十分な対策をして試験に臨むことが好ましいでしょう。
入試は一般入試の他にAO入試、公募制推薦入試、その他帰国生や留学生などを対象とする特別入試などがあります。AO入試は英語英文学科、国際関係学科と情報科学科、総合政策学科で募集され、公募制推薦入試は英語英文学科と多文化・国際交流学科、数学科、情報科学科で募集されています。
一般入試はA・B・Cの3つの方式があります。A方式は大学個別の記述式試験です。全ての学科で募集し、試験日は2/5~7、試験科目は学科によっても異なりますが2~3科目を受験します。B方式はセンター試験+個別学力試験です。学芸学部の全学科で募集しており、試験日は2/28、センター試験3科目に加え英語英文学科は英語、国際関係学科と多文化・国際協力学科は小論文、数学科と情報科学科は数学の受験が必要です。C方式はセンター試験のみでの選考になります。前期・後期があり、前期は全学科で、後期は英語英文学科と総合政策学科のみ募集しています。募集人数は非常に少ないものの後期は3/8まで出願を受け付けているため「後出し」での受験も可能です。センター試験2~5科目の受験が必要となります。
AO入試は学科によって異なる試験が必要です。(小論文などの筆記試験や面接など)また公募制推薦入試は高校からの推薦を受けた者が面接で受験します。
東京の女子大の中ではお茶大、日本女子大、昭和女子大などに次ぐ難易度を誇る大学であり、多文化・国際協力学科や総合政策学科の偏差値が比較的に高くなっています。合格最低点・平均点は学科や方式により大きく異なりますが、個別試験なら6割程度の、センター試験利用入試なら8割程度の得点が必要です。
学費は学科により多少異なります。入学金は全学部共通で20万円ですが、学芸学部の英語英文学科・国際関係学科は授業料が年額75万円、施設設備費が年額25万円で初年度納入額が120万円となります。また学芸学部の多文化・国際協力学科と総合政策学部の総合政策学科は授業料が年80万円、施設設備費が年額28万円で合計128万円、学芸学部の数学科と情報科学科は授業料が83万円、施設設備費が28万円で合計131万円です。その他に別途で同窓会費等がかかります。また2年次以降は学費が漸増していくシステムとなっています。
一方で大学独自の奨学金制度も充実しており学生生活の支えとなっています。給付型奨学金は以下のようなものがあります。
このほかにも、有望な大学院入学者のための奨学金や、海外留学者を支援するためのもの、
海外での課外活動を奨励するものなどが豊富に用意されています
また、経済的に困窮する学生のために無利子で授業料相当・または30万円を貸与する「津田カレッジローン」や、家計の急変など緊急時に学費の支払いを援助する奨学金もあります。学外の奨学金を利用することも可能です。
小平キャンパス内に東寮、西寮、白梅寮の3つの寮があり、毎年60~80人の新入生が入寮しています。自宅からの通学時間が3時間を超える学生のみ入寮を希望することができ入学から4年間の在寮が可能です。1人部屋と2人部屋があり寮費は部屋によって異なるものの、1年間でおよそ30万円、別途で入寮申込金約10万円がかかります。また食事は出ないので各階のキッチンを使って自炊する学生が多いそうです。
津田塾大学の特徴の一つに高い就職率があります。更に単純な就職率だけでなく、多くの学生が志望した企業に就職し満足したとの結果が出ています。学科で身に付けたスキルを活かして幅広い分野の企業に就職し、また男女差のない総合職や専門職に就く傾向があるようです。
4年生の87%が就職を希望し、90%半ば~後半の卒業生が実際に就職しています(2018年度の卒業生の就職決定率は98.5%でした)。また就職者のうち91%が第二志望までの企業に就職し、就職先への満足度は96%となっています。
主な就職先は学科によっても異なりますが、英文学科や国際関係学科からは運輸・通信業やサービス業に進む学生が、数学科からは製造業や銀行・証券・保険、情報サービス業に進む学生が、情報科学科からは製造業や情報サービス業に進む学生が多くなっています。また公務員や教員となる卒業生も多数います。
高い就職率の要因には小規模大学ならではの学生一人ひとりに対する丁寧な進路サポートがあります。入学時から学生生活課が中心となって就職支援を行っており、先輩やOGによる相談会・説明会など充実したガイダンスを開催しています。
大学院に進学する学生はそこまで多くありませんが、数学科や情報科学科での進学率は10%前後となっています。津田塾大学の大学院の他、筑波大学、東京大学大学院に進学する卒業生もいます。
大学院には文学研究科、国際関係学研究科、理学研究科の3つの研究科が設置されています。修士課程と後期博士課程があり、修士課程は在学生が30人ほど、後期博士課程は2人となっています。(2019年現在)文学研究科はイギリス文学、アメリカ文学、イギリス文学、英語学、コミュニケーション(コミュニケーション学・英語教育)の6つのコースが置かれています。国際関係学研究科は日本最初の国際関係学の研究科となっています。また理学研究科は数学専攻と情報科学専攻の2つが設置されています。
大学の雰囲気を一言で表すならば「アットホーム」でしょう。少人数教育で先生と学生の距離が近い(教室も小さいので物理的な距離も小さい!)ため1人ひとりに対し先生の目が行き届き気にかけてくれるなど面倒見が非常に良いのが特徴です。顔と名前も覚えてもらえるため質問に行きやすいのもメリットと言えます。特に人数が少ない学科ではよりアットホームで、学科全体で顔馴染みになるので課題を協力してやるなどして楽しいそうです。図書館やカフェ、食堂で自習に励んでいる学生の姿も多く、真面目に勉強をしたい人にとっては最適な環境だと言えるでしょう。
男子がいない分学校内では非常にのびのびとした空気が流れています。男子の友達が全く出来ないという訳ではなく、インカレのサークルなどで新しい友達を作ることもできます。地理的に近い一橋大学とのサークルが多いようです。いい人が多く、とても刺激になると聞きました。サークルの数も多いためいくつかのサークルに所属することもでき交友関係を広げていくことができます。体育会に所属している学生と文科系のサークルに所属している学生が約30%ずつとなっており、友人や居場所を作るという役割を果たしているようです。
施設に関しては、図書館やキャンパスがきれいで使いやすい一方、食堂は最近リニューアルされ雰囲気は良いが席数が少なく混むといった不満はあるようです。図書館は丹下健三が設計した建物で、そこまで混雑しないため集中して勉強に取り組むことができるそうです。近隣の国際基督教大、国立音大、東京外語大、東京経済大、武蔵野美術大の図書館を相互に利用することもできます。またAVライブラリーという施設ではCDやDVDなどの視聴ができます。映像資料を用いた勉強はもちろん、最近のディズニー映画なども含めかなり多くの映画が揃っており空きコマではここでリラックスをする学生もいます。
また、就職や留学についても恵まれた環境です。就職に関しては女子大で学生数が少ないからこそ得られる資料・情報がたくさんあります。7の進路実績にも記しましたが、学生数が少ないからこそ一人ひとりに対してきめ細かいキャリア支援をしているため就職先にも満足できる卒業生が多いのでしょう。留学に関してはさすが津田塾、と思わせるような提携校の多さと長期・短期留学プログラムの多さが特筆すべきポイントです。大学を通した留学ならば授業料や大学の学費の支援も受けられます。また私費留学の場合でも大学の認定を受けられれば卒業に必要な単位として申請することが可能です。2015年の学生向けのアンケート調査では留学を経験した学生が約20%、留学希望・予定の学生が50%以上と他の私大に比べかなり高くなっています。
参考文献
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