長野県―県民は信州と呼びます―は非常に広大な県です。周囲には日本アルプスをはじめとする山々が広がり、各地域によって文化も異なります。そんな信州にある国立大学・信州大学は、学生数、教職員数、キャンパスの大きさ、数、いずれも非常に大規模な大学です。信州の豊かな自然など地の利を活かし、地元に立脚した研究も行っている信州大学、その典型例が蚕糸の一大産地だった上田の繊維学部でしょう。この記事では、そんな信州大学の学びや生活について見ていきたいと思います。
信州大学自体は戦後にできた大学ですが、そのルーツはもっと長い歴史を持っています。近年は企業などと連携した研究を進めており、繊維学部は国際的な研究拠点にも選ばれました。そして、世界の舞台でも大活躍したあのアスリートも輩出しています。
信州大学は1949年、県下の7つの高等教育機関(松本医科大学、松本高等学校、長野師範学校、長野青年師範学校、長野工業専門学校、上田繊維専門学校、長野県立農林専門学校)が統合してできました。日本唯一の繊維学部はこの流れを引いています。また県下の色々な都市にキャンパスがあるのもこの成り立ちが理由です。
大学の理念の最初に「信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にします。」とあるように、所在地信州というアイデンティティ、地域貢献を大切にしています。また、自然環境の保全や人々の福祉向上、産業の育成や活性化に奉仕すること、国際交流により多様な文化を理解し受け入れられる若者を育てること、自立した個性を尊重すること、研究成果を人々の幸福に役立てることを理念、目標としています。
先にも述べた繊維学部は化学・材料科学の分野において世界屈指の学術機関であり、国際ファイバー工学研究教育拠点に指定されました。繊維に関する論文数やファイバー、ナノファイバー研究も世界トップクラスを誇っています。また産学官連携も進めており、大学発ベンチャーを支援する制度や起業家を支援する協定の締結、サイバーセキュリティ分野での民間企業や長野県警との協定、その他の分野でも民間企業と連携を進めています。
卒業生は様々な分野で活躍しており、例えば政界では元東京都知事の猪瀬直樹さん、他にも経済界、医学・学術の面でも著名な卒業生がいます。また、人気俳優の佐藤二朗さんや宮崎駿さんの息子でアニメーション作家の宮崎吾朗さん、平昌オリンピックで活躍したスピードスケートの小平奈緒さんなども信州大学の出身です。
信州大学は8学部18学科を有し、1学年の学生数は2000人、学部生全体では9000人にも及ぶ大規模な大学です。キャンパスも長野県の各地域に点在しており、自然豊かな環境でのびのびと研究に打ち込むことができるでしょう。
信州大学にある学部は人文学部、教育学部、経法学部、理学部、医学部、工学部、農学部、繊維学部の8つです。それぞれの学部に含まれる学科については以下のようになります。
それぞれの学部・学科の定員の内訳は以下の通りです。
信州大学のキャンパスは長野県内4つの都市(松本、長野、伊那、上田)に置かれている「たこ足大学」です。松本キャンパスは大学本部が置かれ全ての1年次生が通うキャンパスであり、2年次以上は人文学科、経法学科、理学部、医学部の学生が用いています。松本駅からバスで15分ほどの位置にあり、キャンパスの周辺にはスーパーや飲食店があり、また駅にも遠くないので生活に困ることはほとんどありません。(ちなみに、大学近くの公園や縄手通りは映画『orange』のロケが行われたそうです)長野市には2つのキャンパスが置かれています。長野(教育)キャンパスは長野駅からバスで15分ほどの場所にあり、教育学部の学生が通っています。近くには有名な善光寺もあります!長野(工学)キャンパスは工学部が設置されています。長野駅からバスで5分ほど、歩いて15分ほどの場所にあります。どちらも中心地からはあまり離れておらず、スーパーや飲食店も近くにあるので非常に便利でしょう。伊那キャンパスは農学部の学生が通います。JR飯田線の伊那市駅からバスと徒歩を合わせて20分ほどで、近くまで新宿や名古屋駅から高速バスも出ています。非常に自然豊かな環境にあり演習林や農場、牛舎などもあるので実践的な学びが可能です。ただ、生活には車などがあった方が便利かもしれません。上田キャンパスは繊維学部が置かれており、上田駅からバスと徒歩で10分ほどの位置にあります。上田は古くから蚕糸産業が盛んな地であり、現在は最先端のファイバー工学を学べる設備も揃っています。
いずれのキャンパスにも広い敷地の中にグラウンドや体育館、図書館などが設置されており、また学生寮もキャンパス内かすぐ近隣にあります。
ここでは特徴的な学部・学科・コースについて、学習面を中心に詳しく記していきます。
総合法律学科:応用経済学科と同じく理工学や経済学など幅広い学際的科目や法務実習的科目が用意され、他の分野の理解を背景として現代の複雑な課題に法的解決策・予防策を見いだせる人物を育成します。
保健学科:看護学、検査技術科学、理学療法学、作業療法学の4専攻が置かれています。4年一貫制教育を行い、1年次で専門基礎科目や専門科目を学び2年次から臨床実習などに移るカリキュラムです。海外研修などを通してコミュニケーション能力や国際的視野を身に付けることも目指しています。
信州の豊かな自然を活かした教育と、広大なキャンパスで実践的な教育を受けられる恵まれた環境が学習面における最大の特徴です。
取得可能な資格については学部によって異なります。(多くの学科で教員免許が取得可能です)特徴的な資格としては、教育学部の図書館司書や公認心理士(受験資格)、経法学部の税理士や公認会計士、弁護士、司法書士、理学部の測量士補や自然再生士補、工学部の毒物劇物取扱責任者や甲種危険物取扱者(受験資格)、無線技士、建築士(受験資格)、土木施工管理士、農学部の食品衛生責任者や樹木医補、環境再生医などが挙げられます。医学部は国家試験合格率が医学科では93.4%、保健学科では98.3%となっています。医学科で医師の受験資格が取得可能なことはもちろん、保健学科ではそれぞれの専攻で看護師、保健師、助産師、養護教諭(以上看護学専攻)、臨床検査技師や健康食品管理士(検査技術科学専攻)、理学療法士(理学療法学専攻)、作業療法士(作業療法学専攻)の受験資格が取得可能です。
大きなイベントである学園祭は、10月上旬から11月頭にかけてキャンパスごとに行われます。それぞれに名前がついており、上田キャンパスは「東雲祭」、長野(工学)キャンパスは「光芒(こうぼう)祭」、伊那キャンパスは「落葉松(からまつ)祭」、松本キャンパスは「銀嶺祭」、長野(教育)キャンパスは「まほろば祭」と呼ばれます。(「まほろば祭」はここ何年か開催されていないようです)最大規模を誇るのが「銀嶺祭」です。「ゲスト企画」では、人気俳優や声優のトークショー、お笑い芸人のライブなどが開催されています。他にも、大学の授業が受けられる「市民解放授業」や大学内でビアガーデンが開催されるなど盛り上がりを見せるそうです。
また、大学と関係はありませんが、松本キャンパスの近くでは松本ぼんぼんという有名なお祭りや諏訪湖の花火大会といった大きいイベントが開催されており、そのようなイベントを楽しむ学生も多いそうです。
キャンパスが点在していることもあり講義は学部によって違うようです。その中でも、やはり繊維学部の教授が行う「材料と化学」という授業は特徴的で珍しいものだと言えます。また、地学の著名な先生が行う「自然災害と環境」も有名な授業の一つです。他にも、テレビ『世界一受けたい授業』に出演したこともある教授もいます。
ここでは入試について簡単に記していきます。難易度が極めて高いという訳ではないですが、医学部や人文学部を中心に難関と言える学部もあります。十分な対策をして臨みましょう。
入試種別には一般入試(前期・後期)の他、AO入試や推薦入試が実施されている学部・学科もあります。その他帰国子女入試や社会人入試、留学生入試も行われています。AO入試などが行われる学部は以下の通りです。
一般入試後期試験:経法学部総合法律学科、医学部医学科、医学部保健学科理学療法学専攻以外の学科
AO入試:理学部理学科地球学コース
推薦入試Ⅰ(センター試験を課さない):教育学部、経法学部、工学部、農学部、繊維学部
推薦入試Ⅱ(センター試験を課す):経法学部、医学部保健学科
帰国子女入試:人文学部、理学部、工学部、農学部、繊維学部
一般入試の前期試験は他の国立大学と同じく2/25.26に行われます。(教育学部と医学部医学科のみ2日間試験が行われ、他の学部は2/25の1日間です)また後期試験は3/12に行われます。科目は学部・学科により異なりますが、センター試験に加え個別試験として1~3科目の受験が必要です。また、教育学部のコースによっては実技試験や面接が課されるコースがある他、医学部は2日目に面接が行われます。後期試験はセンター試験の成績に加えて個別試験や面接、実技試験を受験することが必要です。
全学部の中で偏差値が比較的に高いのは医学部医学科、人文学部、経法学部応用経済学科などです。特に医学部医学科は国立大学の医学部ということもあって非常に難易度が高くなっています。合格最低点は学科やコース・専攻により異なるものの、少なくとも文系学部では60~70%、理系学部では60%ほどの得点が必要になるでしょう。また、後期試験は定員が少ないこともあり倍率が非常に高くなっています。
学費は他の国立大学と同じく、入学料が282000円、授業料が1年間で535000円となっています。
学費を援助する大学独自の奨学金として、「信州大学知の森基金奨学金」があります。これは収入の少ない家庭の20人ほどに40万円を給付するもので、入試の際に申請することが必要です。その他に日本学生支援機構の「高等教育の修学支援新制度」による給付型奨学金や貸与奨学金、民間育英団体や地方自治体による奨学金を受け取ることも可能です。また学費負担者の死亡など特別の場合を満たす学生や、経済的に苦しくかつ学業優秀な学生に対する授業料・入学金の免除や徴収猶予の制度もあります。
信州大学は県外から来る学生も多く、9割近くが一人暮らしだと言います。そのためキャンパス周辺にアパート等も多いほか学生寮も充実しており、各キャンパスの近くに8つの寮があります。そして寮の私生活面は自治により運営されており集団生活を通じて社会で必要なことを学ぶことができることもメリットでしょう。
それぞれの学生寮について簡単に記していきます。「こまくさ寮」は1年生用の寮で、松本キャンパスから徒歩20分の場所にあります。男女合わせて300人以上を収容する最大規模の寮で2人部屋、3食付きの環境が特徴です。またスポーツ大会等のイベントもあります。その他、松本キャンパス近くには人文・経済・理学各学科の2年次生以上が住む「思誠寮」・「思誠女子寮」、医学部生が住む「芙岳寮」があります。長野キャンパス付近には、教育学部の2年次生以上が住む「妻科寮」(通称あけぼの寮)、工学部の2年次生以上が住む「若里寮」があります。「中原寮」は伊那キャンパスに通う農学部の2年次生以上のための寮、「修己寮」は上田キャンパスに通う繊維学部の2年次生以上のための寮です。いずれの寮も住居費が安く、「思誠寮」以外は男女どちらも住むことができます。また寮食は出るところと出ないところがあり、「妻科寮」と「中原寮」は2人部屋、それ以外は1人部屋です。
学部・学科により傾向は異なるものの、文系学部を中心に就職する卒業生が多いようです。また進路の特徴の一つに、長野県に就職する学生の多さが挙げられます。地元への愛着が残ること、そして地元企業も積極的に信大の卒業生を受け入れていることが要因なのではないでしょうか。
進学・就職状況は学部・学科によって大きく異なります。進学率が高くなっているのは理学部の理学科や工学部の多くの学科、農学部、繊維学部などで、他の学部・学科は就職する学生が多くなっています。進路状況としては、多くの学科で製造業や公務に進んだ卒業生が多くなっており、金融・保険業や情報通信業も学科によっては多くなっています。その他教育学部からは70%ほどが教員になっており、理学部からや教育・学習支援業に、農学部からは卸売・小売業に進む卒業生が比較的多くなっています。そして、進路状況のもう一つの特徴として長野県内に就職する学生が首都圏に並んで多いことが挙げられます。就職支援も十分に行われているそうです。
大学院には修士課程の5つの研究科(人文科学研究科、教育学研究科、経済・社会科学研究科、医学系研究科、総合理工学研究科)と博士課程の総合医理工学研究科が設置されています。修士、博士、教育学研究科の専門職学位課程を合わせて平成30年度は800人弱が入学しており、全学生数は1900人以上に及びます。
学生数自体が多く、1年次では全員が同じ松本キャンパスに通うため多くの人との出会いが可能と言えるでしょう。部活やサークルの数も多く学部外の友人も沢山できるようで、2年からは学部ごとに他のキャンパスに移っていくため友人を訪ねたりして長野県の色々な場所に行くことができて非常に楽しいそうです。男女比もそこまで極端でなく、落ち着いて環境で落ちついた友人関係や恋愛関係を築くことが可能です。(2年次以降は「長距離恋愛」をするカップルもいるとか)また、人数が多いからこそ色々な性格・背景を持った人と接することが可能であると言えるでしょう。奇抜な髪色をしている自由な人も多いそうです(笑)サークルなどはキャンパスごとに活動するものが多いようですが、一方で全学の部活動やサークル活動に関しては松本キャンパスで活動することが多く移動の不便さは否めません。また、キャンパスが点在していることはのデメリットはこれ以外のもあります。1年次までに取得しなければならない単位を落とした場合、伊那などのキャンパスから松本に通わなければならないのです!
施設や設備に関する満足度も高く、図書館(テスト前は非常に混雑します!)や食堂、体育館や運動場が充実していること、図書館などの校舎が新しくきれいであることがその理由になっています。
先にも述べたようにほとんどの学生が一人暮らしであるため、ご飯は友人同士で行ったりすることが多いそうです。もちろん都会出身の学生にとっては不便に感じることも多いとは思いますが、松本や長野の周辺などは非常に暮らしやすく、自立するための良い経験が詰めるのではないでしょうか。
参考文献
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