電気陰性度から始まる原子の理論的理解

これでもあなたも説明上手?; 説明がうまいと思ったエピソード集

 私が今まで最も説明が上手いと思ったのは、高校の化学で習う電気陰性度について、私の母校の教師が行った説明である。一般に高校化学では、電気陰性度とは「原子核が電子を引きつける力を数値化したもの」と説明される。受験を経験した今でこそ他の語句との混同をするような事はないが、電気陰性度の正確な理解は困難であると思う。理由は、電気陰性度を始め水素結合やイオン化エネルギー等原子の結合や電荷に関わる語句が多いからだ。私はこれが原因で語句の整理が出来ていなかったため母校の教師に質問をした。以下、この教師をT先生と呼ぶことにする。

 まずT先生はクーロン力について説明をしてくれた。

クーロン力は、電荷があれば必ず働く力だ。電気陰性度はそのクーロン力の応用的な考え方だと思っていい。イオン結合だとか水素結合だとかは一度考えないで、クーロン力についてのみ考えよう。クーロン力は次のような式で与えられる。

F=k\dfrac {q_{1}q_{2}}{r^{2}}

F:クーロン力(N) k:比例定数(N・m2/C) q:電荷(C) r:2点間距離(m)

この式が表すことはつまり電荷が高ければ高いほど、距離が近ければ近いほどクーロン力は強くなると言うことだ。電気陰性度はこれの応用。

当時私はクーロン力の存在を知ってはいたが、その式は知らなかったので新鮮に感じたとともに感覚に頼らないT先生の説明に理解を示しやすかった。とりあえず、電気陰性度がこのクーロン力の応用にあるということが分かった。T先生はさらに説明を続けた。

原子の性質は最外殻電子の個数によって決まる。これはいいね。電気陰性度とはかみ砕いて言うとつまり、原子核と最外殻電子とのクーロン力だ。具体例を出そう。

[図1 ナトリウム原子モデル]

[図2 塩素原子モデル]

ナトリウムと塩素は最外殻が同じ、つまりクーロン力で言うところのrが同じだ。だけど、原子核の電荷はナトリウムが+11で塩素が+17。つまり塩素の方が電荷の大きい分クーロン力も大きい。ここでいうクーロン力は原子核が電子を引っ張る力だね。これを電気陰性度という。

私はこの説明を受けたとき、電気陰性度に対する確固たるイメージをつけることが出来た。単なる強さを表す数値という曖昧な理解から、クーロン力に基づいて決められた合理的な指標という段階まで持って行くことが出来た。それはやはり、混同しがちな結合等といった語句を使わずに説明をしてもらえたおかげだろう。

さらにT先生は、電気陰性度と周期表の関係を説明してくれた。

実は金属と非金属の判断は水素の電気陰性度より小さいか大きいかで決まっている。だから電気陰性度は周期表とも大きく関わってくる。周期表では、周期が大きくなれば最大電子殻が大きくなって半径rが大きくなるから電気陰性度は小さくなり、族が大きくなれば電荷が大きくなるから電気陰性度は大きくなる。つまり、周期表の右上に行けば行くほど電気陰性度は大きくなると言うことだ。フッ素が最大の電気陰性度を持つのはそういう理由だよ。

この説明を受けた私は衝撃を受けた。今までただの暗記事項として見ていた「最大の電気陰性度を持つ元素はフッ素」という一文が理論によってつながれたからだ。実際、水素の電気陰性度を基準にしてその大小の境界線を周期表に引いてみると、金属非金属の境界線とほぼ一致した。

T先生はここから結合の話を展開した。

電気陰性度によって金属非金属の区別が出来たら、今度は結合の話が出来る。大雑把に考えると、結合の種類はどう考えても3種類しかない。金属×金属、金属×非金属、非金属×非金属の3種類。これがそれぞれ金属結合、イオン結合、共有結合にあたる。それぞれの特徴は電気陰性度の強さを見れば明らかじゃないかな。電気陰性度が弱いと言うことは、それだけ電子を離しやすいと言うことだからね。だから、電気陰性度はイオン化エネルギーや電子親和力の話にも通ずるところがある。また、結合と名がついているけれど水素結合は分子間の極性によってうまれるものだから区別するように。

これもまた私の印象に残っている。たしかにお互いの電気陰性度がよわい金属結合では自由電子が存在するのも納得できるし、お互いが電子を引き合う関係にある共有結合が最も強い結合であるのも合点がいった。また、そこからイオン化エネルギーや分子の極性の話も広げられた。

 このようにT先生は、「電気陰性度」という考え方のみを考えの起点にしてその強弱が金属非金属の判別をなしていることや、結合の種類などの周辺知識をわかりやすくかつ論理的・体系的に説明してくれた。実際この後私は電気陰性度から始まるフローチャートを作ったが、今まで煩雑に散らばっていた原子周辺の知識がすっきりと整理されて受験に大いに役立った。なるべく化学の専門用語を使わずに、高校生であってもわかりやすく理解できるような説明をするのは至難の業である。なので、多くの語句で混乱しやすい化学の原子分野を見事に少ない用語で説明してくれたT先生の電気陰性度の話が、私は人生で最も説明が上手いエピソードだと思っている。

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