尾道市立大学は広島県尾道市にある公立大学です。
経済情報学部と芸術文化学部の2学部制で学生数は1400人ほどという小規模な大学ですが、そのぶんきめ細かい少人数教育を提供しています。
大学の一番の特徴はその置かれている環境です。有名な観光地である尾道には豊かな自然と歴史情緒があり、街として「尾道映画祭」を開催しているように文化的にも良いインスピレーションを受けられることでしょう。
またキャンパスにはとても緑が多く、静かな環境で研究や制作に没頭できることでしょう。
今回はそんな尾道市立大学での教育や学生生活について調べてみました。
大学が現在の形になったのは2012年と最近ですが、その前身は1946年から市民のために公教育を提供していました。「知と美」の両面を重視し、また公立大学として地域との連携・貢献も大切にしています。
前身となっているのは1946年に設置が認可された「尾道市立女子専門学校」です。高等教育機関の少なかった時代にいち早く創設された女子専門学校でした。1950年、学制改革に伴い「尾道短期大学」に改称・転換し、更に2001年に時代の要請に応じて4年制の「尾道大学」となりました。そして2012年に「尾道市立大学」とみたび名称が変わり今に至ります。短期大学の開学当初は国文学科のみの単科大学でしたが、現在は2学部3学科を有しています。
大学の理念は「『知と美』の探求と創造」としています。古くから瀬戸内の要衝として発展しすぐれた芸術文化を生み出してきた尾道の地で人と情報が集まって「知と美」を探究する場、 そのなかで新たな「知と美」を創造しその成果を社会に発信する場、そして学問と人間的触れ合いを通じて有為な人材を育成する場となることを目指しています。
また、教育目標を「培う尾道市立大学」、研究目標を「拓く尾道市立大学」、社会貢献目標を「活かす尾道市立大学」とそれぞれ掲げ、地域社会・国際社会の発展への貢献や「知と美」の創造、その成果の発信を目指しています。[i]
大学のアドミッション・ポリシーとして「地域社会や国際社会に貢献したい人」[ii]を挙げているように、地方に根差した公立大学として地域貢献活動を積極的に行っています。「地域総合センター」を中心として地域住民に向けた講座や地元企業との産学共同研究など様々な事業を行っており、また学生主体で地域の新聞を作るなどもしています。
更に、「尾道市立大学美術館」を設置し継続的に学生・卒業生・教員による展覧会を企画し、大学での成果を発表してきました。これは若手作家の作品が紹介されないという地方の状況を改善するためのプロジェクトです。
著名な卒業生には『タビと道づれ』『すみっこの空さん』などの作者である漫画家のたなかのかさんや『鋼の錬金術師』の制作や『モブサイコ100』のキャラクターデザインなどを手掛けるアニメーターの亀田祥倫さんなどがいます。
現在は2学部3学科を設けており、幅広い視野と基礎的な知識、高い専門的能力、そしいて社会に求められるような人柄も有した人材を育成しています。
学部は経済情報学部と芸術文化学部の2つが置かれており、経済情報学部には経済情報学科(3コース制)が、芸術文化学部には日本文学科と美術学科(3コース制)がそれぞれ設けられています。
1学年の定員が200人、在籍者(学部生)の合計が約1450人と小規模な大学です。なお、入学試験の合格者は例年450人ほどとなっており、実際の入学者(学生数)も1学年350人ほどと定員より多くなっています。
表1 入学定員と学生数
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
キャンパスは尾道市内にあり、JR山陽本線の「尾道」駅からバスで20分ほど、新幹線「新尾道」駅からバスで約15分という立地です。
広島県・岡山県・兵庫県・愛媛県など近隣出身の学生が多いですが、半分以上の学生が大学の近くに1人暮らししており徒歩やバス、バイク・原付バイクで通う学生が多くなっています。立地が良いとは言えないものの、朝や夕方はバスの本数も多く便利なようです。
とても自然豊かな敷地の中には教室棟や体育館・グラウンドといった運動施設、図書館や工房・塗装室等の制作施設、学生食堂「オヤマノカフェ」などがあります。また、食堂以外にもコンビニエンスストアや画材店が入りシャワー室もある施設「翠明館」があるので非常に便利でしょう。
大学の近くに飲食店は少ないため買い物の際には尾道の駅前まで行く学生が多く、また遊ぶときには福山まで電車で行く学生もいるようです。尾道駅の近くは観光地でオシャレなカフェなどもあります。
そのほかに大学施設として、尾道駅近くの市街地に「サテライトスタジオ」を有して街中における活動拠点としており、ゼミや授業を行っています。展覧会やワークショップ、市民の方に向けた講座にも用いられている大学と市民との交流拠点です。また、駅からバスで10分ほどの場所に「尾道市立大学美術館」もあります。
この項では学科・コースについて詳しく書いていきます。
尾道市が目指す「活力あふれ感性息づく芸術文化のまち」の柱である日本文学と美術を学び、各分野において地域文化に貢献することを目指します。[iv]
教育面の大きな特徴は「少人数教育」です。人数の少ない大学であるため、多様なニーズに応えつつもきめ細やかな指導が可能となっており、演習の授業やゼミでの研究など教員と学生が双方向にコミュニケーションをとって学ぶことができます。また、この少人数の利点は教育だけでなく就職支援でも活かされています。
大学の立地する尾道の環境も大きな特徴の一つです。自然豊かで静かなキャンパス周辺は勉強や研究、制作に集中できる恵まれた環境です。また、風光明媚な瀬戸内海に面し、歴史ある尾道の寺院や街並みはコンパクトながら自然や文化がとても豊かで制作活動において良いインスピレーションが生まれることでしょう。もちろん、アトリエや工房など制作のための施設も充実しています。
取得可能な資格は以下の通りです。日本文学科や美術学科では教員を目指す学生が多いという特徴があります。
名物行事は11月の初めに開催される大学祭の「翠郷祭(すいごうさい)」です。2019年で18回を迎えました。野外ステージでは有名なお笑い芸人の方を招いたお笑いライブや音楽系部活・サークルによるライブが行われます。
また、部活動など有志による模擬店や展示(アナログゲームの体験や写真・生け花などの作品の展示など)、日本文学科や美術学科、大学院の学生による制作作品の展示も人気の企画です。美術学科の学生がつくった作品は買うこともできます。
このほかにも、学友会が七夕やハロウィン、クリスマスなどの行事の際にはイベントを企画しているようです。4月には2年生が中心となって新入生歓迎会が開かれ、軽音やダンスなどの催しや食事を楽しめます。
学科ごとの行事もあります。5月にはスポーツ大会があるほか、経済情報学科において4年生の最後に行われ研究の集大成でもある研究発表会は尾道駅前の交流館で開かれ、一般の方も観覧することができます。
日本文学科では5月に「尾道文化散歩」があり、1年生と上級生、教員とで尾道の名所旧跡をゆっくりと回ります。また11月のフィールドワークは授業の一環として全国の文学ゆかりの地を訪ねる行事です。
学生からの評価が高い授業としては全学科共通の「尾道学入門」(尾道のお寺など各所を実際に見て回り、歴史や経済などさまざまな観点から尾道について学ぶ)や「キャリア形成入門」(社会に出るにあたってキャリア形成に関する基礎を学ぶ)、経済情報学科の「経営史」(産業革命以降の労働の歴史について学ぶ)などがあります。
これら以外にも、共通科目の「メディア論」(テレビや電話の歴史、様々な映像を通して現代のメディア社会について考える)や経済情報学科の「マルチメディア論」(SNSなど身近な内容を題材に学ぶ)や「ビッグデータ活用」(ツイートを用いたテキストマイニングなどを例にビッグデータについて学ぶ)、日本文学科の「日本語学講義」(地元で使っていた言葉を発表して方言のルールを理解する)など特徴的な授業が多数開講されています。
美術学科は実習の時間が多いのも特徴です。各コースの実習は2年次から本格的に行われます。例えば油画コースでは3年次に「油画実習Ⅱ」(尾道近隣の風景課題などを行う)や「古美術研究(演習)」(実際にヨーロッパを訪れて共同生活を行い、様々な時代の美術作品とそれを培った現地の風土に触れる)などが、デザインコースでは3年次に「デザイン実習Ⅱ」(2年次の実習を活かして表現を行い、後期には古美術研究旅行を行って日本の歴史の中のデザインと美の関わりについて学ぶ)などが開講されています。
また、著名な教員として日本推理作家協会賞を受賞した光原百合さんがいます。
この章では大学の入試情報について紹介していきます。2021年度より入試制度が変更されますが、2020年度までの制度と大きな変更はないでしょう。
入試種別は「一般選抜(旧一般入試)」(前期日程・後期日程)と「学校推薦型選抜(旧推薦入試)」の2種類です。また、この他に私費外国人留学生入試も実施されています。経済情報学科の推薦入試では一般推薦と特別推薦(尾道市内推薦、商業・総合学科等推薦)の2種類があります。
表2 入試種別ごとの募集人数
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
この項では主に2020年度までの入試情報について書いていきます。
他の国公立大学と同じく、一般入試の前期試験は2/25,26に、後期試験は3/12,13に行われます(2日目は実技検査が行われます)。
センター試験(共通テスト)を受験した後に個別試験が実施され、更に2021年度からは調査書等も選考基準として使われる予定です。センター試験(共通テスト)に関しては必須科目以外に地歴公民や理科などを選択し受験します。英語の資格検定試験の結果は出願資格として取り扱われません。
表3 一般入試の試験科目
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
偏差値は日本文学科の方が高くなっており、前期日程の倍率はどの学科も3倍~3.5倍です。後期日程の倍率は更に高く、5倍近くから10倍になることもあります。また、同じく国公立大学で同じ地方にある香川大学や島根県立大学、島根大学などがライバル校と言えそうです。
センター試験の得点率は前期が60~70%、後期が67%~78%ほどで、個別試験と合わせた合格最低点はおよそ60%~75%です。簡単ではないですが、しっかり準備すれば十分に合格できるでしょう。
授業料はほとんどの国立大学・公立大学と同じく年間で535,800円です。また入学料は尾道市内の学生が282,000円で尾道市外の学生が423,000円となっています。そのほか学納金として後援会費、学友会費などがあり年間で72,660円(2年次以降は61,660円)が必要です。
大学独自の奨学金として「尾道市立大学奨学会奨学金」があり、経済的な事情により修学が困難になった場合に利用できます。若干名に対し無利子で30,000円を貸与する制度です。
また、日本学生支援機構の給付・貸与奨学金やその他団体や企業による奨学金も紹介しており、これらも利用することが可能です。
学業成績が良好で、かつ経済的理由により授業料納付が困難な学生や震災・風水害など災害により生活が困窮した学生のために授業料の減免・徴収猶予の制度も用意されており、学生の修学の継続を支援しています。
大学が運営する学生寮はありません。大学の周辺や尾道市内にはこの大学の学生を対象とした食事付きの寮やアパート(仲介手数料が無料)があるほか、ワンルームマンションやアパートなどもあります。
大学周辺(徒歩10分以内)では350名ほどの学生が寮・ワンルームに入居・生活しています。家賃は4.5畳で月額11.000~22,000円程度、6.5畳以上で20,000~35,000円程度、ワンルームで40,000~50,000円程度です。またバスを用いて10~30分ほどの尾道市内にはワンルームマンションやコーポが多く、約650名が入居しています。家賃は月額35,000~50,000円ほどです。
2018年度卒業生の就職率は95.3%でした。卒業生約300人のうち90%以上の学生が就職を希望しており、大学院への進学者は例年10~20人ほどとなっています。また、近隣の中国・四国地方に就職した学生が多いのが特徴です。
学科ごとに2018年度卒業生の就職率を見ていくと、経済情報学科が98.9%、日本文学科が91.5%、美術学科が83.7%です。
学科ごとに就職先業種には特徴がみられ、経済情報学科からは金融・保険業や情報通信業、教員志望者の多い日本文学科からは学校教育・学習支援業、美術学科からはデザイン業、製造業(印刷会社)、制作業(Webデザインやゲームソフト、映像など)など学科で得た専門的な知識を活かせる職種へ進出する学生が多くなっています。また、全体としては製造業や卸・小売業、金融・保険業が60%を占め、公務員も20名ほどいます。
地元に就職する卒業生が多いのも特徴で、就職者のうち50%以上が広島県や岡山県など中国・四国地方に就職しています。一方で東京都と大阪府にも合計25%の学生が就職しており、地元への貢献と大都市への進出がバランスよく行えていると言えるでしょう。
図1 地域別・業種別就職状況
(尾道市立大学HPより引用)
大学院への進学者は年によってバラつきがあるものの、例年10~20名が進学しています(2017年度は特に多く25名、2018年度は6名、2019年度は11名)。美術学科から尾道市立大学大学院へ進む学生が多く、進学先としては尾道市立大学の大学院が多いものの、広島大学大学院など他大学の大学院に進む学生もいます。
大学院には経済情報研究科(経済情報専攻)、日本文学研究科(日本文学専攻)、美術研究科(美術専攻)の3研究科が置かれています。また美術研究科には日本画研究分野、油画研究分野、デザイン研究分野の3研究分野があります。総定員が52名、学生数は38名で、研究科ごとに見ると美術研究科が大半を占めており合計29名です。
また、大学の附属機関として情報処理研究センターや地域総合センター、国際交流センターなどが設置されています。
主に美術学科が用いる恵まれた施設はメリットの一つです。敷地内には大空間を持つ石膏室や写真スタジオ、CG・彫刻・金工・木工・塗装・セラミック・版画の各種実習室(工房)があります。充実した機材が揃っており、専門分野の施設はもちろん、個々の自主制作ではコースの垣根を越えて様々な工房施設を利用することができます。また専用のアトリエもあり、潤沢なスペースで制作に取り組めることでしょう。
また、勉強に取り組む設備も充実しています。エアコン完備の自習室はテスト前でも快適に利用することができ、パソコンやWi-Fiの環境も整っているので課題などにも集中して臨めることでしょう。
また図書館は規模こそ大きくないものの特に日本文学に関する貴重な資料が多く、興味のある人にとってはとても恵まれた環境と言えます。目の前がダムで眺めもいいそうです。
就職支援活動はキャリアサポートセンターやキャリア開発委員会が中心となって行っていますが、チューターなどの教員やキャリア教育、課外活動を通しても積極的な支援を行っています。
具体的には、キャリアサポートセンターでは各種情報提供のほかに進路相談や面接指導の実施を、キャリア開発委員会では就職ガイダンスやセミナー、地元企業との懇談会、企業説明会などの実施を行っています。
また、1年生の「キャリア形成入門」や2・3年生の「キャリア形成演習」「インターンシップ」などの授業科目を通して就業力や社会人の基礎力を身に付ける支援もしています。簿記など資格対策講座を開講しており、簿記やファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士など国家資格を取得した場合に奨励金が給付される制度も特徴です。
独特な制度として「チューター制度」があります。これは指導教員(チューター)を中心として経済情報学科と日本文学科では10人程度、日本文学科では5人程度のグループを作る制度であり、同級生はもちろん先輩・後輩との仲も深めることができます。この制度のおかげで入学時は知り合いのいない新入生もすぐ大学生活に馴染むことができるようです。
学生数は少ないですがその分友達も作りやすく、学科内のほぼ全員と顔馴染みになれます。学生やキャンパスの雰囲気は落ち着いているようで、また交友関係や恋愛は学内が多いようです。
クラブやサークル・同好会は種類が多く、大学が公認しているだけでも50以上が活動しています。体育会系は球技や武道、サイクリングや陸上競技部などが活動しており、男子バレーボール部は全日本インカレにも出場しました。また文化系には音楽系や茶道部、演劇部やアンカー部(地域などでボランティア活動を行う)などがあります。そのほか芸術関係のクラブもあり、陶芸部や美術史研究会などが活動しています。自分の趣味に合ったサークルに入り、そこでの活動を通して男女・学年問わず交友関係を築く学生が多いようです。
また、アルバイト先で交友関係を築くこともあります。授業や部活・サークルなどと両立している学生も多く、勉強とそのほかの自由な時間のバランスの良い生活を送れるようです。
そして、やはり最大のメリットは大学のある環境です。自然と歴史が豊かで文化的な雰囲気もあり、独特な魅力にあふれた尾道の街で勉強・制作も含め充実した学生生活が送れることでしょう。
参考文献
[i] 尾道市立大学HP 「大学概要 大学の理念・目標」
[ii] 尾道市立HP 「入学案内尾道市立大学ポリシー」
[iii] 尾道市立大学HP 「学部・大学院案内 経済情報学部」
[iv] 尾道市立大学HP 「学部・大学院案内 芸術文化学部」
[v] 尾道市立大学HP 「学部・大学院案内 芸術文化学部 美術学科 各コース概要」
(以上6/6閲覧)