教育社会学とは?歴史や研究内容を説明

大学はこんなところ; 専門科目の概要を少しだけ紹介します!

 正しくありません。
タイトルで予想がついた人もたくさんいそうですが、その通りです。教育学部は確かに教員養成をしているところもありますが、それだけではありません。卒業生の進路も様々なので、「教育学部=先生になるための場所」という誤解はあまりにももったいないと言わざるをえません。思いつくだけでも、教育学、教育経済学、教育心理学、教育法学、教育哲学、教育人間学、教育臨床学(臨床教育学)、教科教育学、比較教育学、教育社会学、教育生理学、生涯学習論、開発教育学、教育工学など、様々な領域があります。
本コラムではその中でも「教育社会学」を、進路選択に迷っている高校生専門を決めかねている大学1年生に向けて解説していきます。もちろんこれから専門的に学ぼうという人も歓迎です。

教育社会学の歴史

 教育社会学自体は20世紀初めにアメリカで成立しましたが、日本での成立は戦後になります。教育学が「こうあるべき」という規範を研究する学問であることに対して、社会との関係の中で「こうなっている」という実態を研究する学問として登場したのが教育社会学です。もう少し噛み砕くと、教育を頭の中で考えるだけではなく、アンケート・インタビュー・文献などのデータを用いた調査を通じて、様々な切り口から教育の課題と現実に迫るというのが教育社会学であるという理解をまずは持ってください。

 教育社会学の発展は、日本国内での教育制度の拡大と密接に絡み合っています。学校制度を整えていく時代、高校進学が当たり前になる時代、大学進学が当たり前になる時代に合わせて、人材育成・入試制度・受験競争・校内暴力・体罰・教育と労働の接続・学力格差問題など、新しいテーマが次々と開拓されていきました。というのも、教育社会学は「教育の現状分析と将来予測からなる一連の政策技術体系」であるべきだということを宣言して、社会学とも決別しようとしたことにも影響を受けています。

 新しい学問が出来上がるときは必ずあることですが、すでにある学問領域との違いを明確に言わなければ、「下部組織ではないんですか?何が違うんですか?」と言われてしまいます。教育学とも、社会学とも違うということをアピールするために、べき論ではなく実態を研究する学問であり、理論志向的ではなく政策科学的な学問であることを明言する必要があり、そのように発展してきた学問なのです。

 

[図1 教育社会学の立ち位置]

なにが研究されているのか

 では実際にどのようなことが研究されているのでしょうか。ここでは数ある代表的なテーマの中でも、(私が個人的に面白いと思っている)2つを選んで紹介していきます。

階層と教育

 社会学の考え方の一つに「社会階層」というものがあります。これは、個人の社会的地位を決め、同じような地位の人たちを一つの層と捉える概念です。社会的地位は、財産や収入に基づいた経済的な地位や、みんなにすごいと思われている職業についているかどうかに基づいた職業的な地位などから判断されます。

 そして、社会学だけでなく、教育社会学でもこの考え方は重要視されています。なぜなら、家庭でのしつけ、塾に通えるかどうか、進学、就職、学校にうまく馴染めるかどうかなどの問題は、子どもの家庭環境に関係していて、なおかつその家庭環境は社会階層に関係しているからです。

 近代以前の社会は世襲制で成り立っているため、当然ですが階層は固定的です。しかし近代以降になって階層は流動的になりました。親がお金持ちだからといって子どもがお金持ちになるとは限らない、親が農家だからといって子どもが農家になるとは限らない時代になったのです。そしてその社会的地位の「世代間変化」に大きく関係するのが教育です。

 教育が社会的地位の変化に重要であるとすると問題になることがいくつかあります。例えば、教育機関は機会の平等と結果の平等のどちらを保障すべきか、親は子どもにどこまでの教育を与えるかといったことなどです。特に後者について、ちょうどみなさんは大学の進学先に悩む高校生か、進学し終わった後の大学生だと思うので考えてみてください。

 研究をするために大学に入る人は置いておいて、将来の賃金のために大学に入ろうと思っている人たちに考えてほしいのですが、その選択は当たり前なのでしょうか。大学にいくためには大学の学費や生活費・下宿費(直接費用)の他に、高卒で就職していたら得られたはずの賃金(機会費用)がかかっていると考えられます。

 もしあなたが生まれた地域では高卒の賃金と大卒の賃金にたいして大きな差が無いことを知っていたら、大学進学するでしょうか。学費や生活費を親が出してくれるなら進学するかもしれませんが、自分で稼ぐなり奨学金をもらうなりしなければならない境遇にあった場合、大学進学するでしょうか。もし高卒と大卒の賃金に大きな差があったとしたらどう変わるでしょうか。

ジェンダーと教育

 社会学のホットなテーマの一つに「ジェンダー」というものがあります。人は生まれながらに持つ生物的な性(sex)だけでなく、社会の中で作り上げられていく社会的な性(gender)が存在するという考え方です。性とひとことで言っても、身体の特徴としての性、性自認(自分の性をどれだと思っているか)、恋愛対象の性など、さまざまな概念がありますが、本コラムでは触れないでおきます。

 社会的な性とは簡単にいってしまえば、「女らしさ」・「男らしさ」と言われるものだと思ってもらえればと思います。そしてこのおもしろいところは、「振る舞いはジェンダーによって形成されるが、ジェンダーも振る舞いによって形成される」ということです。

 少し噛み砕いて言うと、私たちは社会が「女らしい」・「男らしい」としている行動を学んで「女らしさ」・「男らしさ」を身につけていきますが、同時に私たちが「女らしい」・「男らしい」とされる行動をとることによって社会の「女らしさ」・「男らしさ」が決まっていくということです。

 ここで大事なのは、いま「女らしい」とされる行動はほとんどが女性によって行われており男性はあまり行なっていないが、その行動をとる人の数が同じになれば、もはやそれは「女らしさ」とは呼ばれなくなるということです。

 教育も「ジェンダー形成」を担っているものの一つであることは想像に難くないでしょう。教育がジェンダー形成に及ぼす影響として、「顕在的カリキュラム」「潜在的カリキュラム」という考え方があります。前者は意識的なもの、後者は無意識的なものと考えていいでしょう。

 例えば昔の話ですが、良妻賢母を育てるために女子には家庭科を学ばせ、工場労働者を育てるために男子には技術を学ばせ、逆は学ばせないというのは、意識的にジェンダーの役割を教えるために行われているため「顕在的カリキュラム」であると言えます。

 そうではなく、例えば荷物運びなどの重労働を男子に、プリント配布などの軽作業を女子にお願いしてしまうのは、意識的にジェンダーの役割を教えるためではないが結果的に機能してしまっているため「潜在的カリキュラム」であると言えます。

何ができるようになるの?

 〇〇学と呼ばれるものには全て、固有の方法論があります。法学は法学なりの、経済学は経済学なりの物事の考え方やスキルがあるのです。では教育社会学は一体どのような物事の考え方やスキルが身につくのでしょうか

 教育社会学の方法論はほぼ社会学に根ざしています。私が受けた「教育社会学の理論を学ぶ」という名目の授業では『社会学の方法』という本を用いて演習を行いました。この本は6人の偉大な社会学者の思想を解説しつつ「社会学はどう使えるのか、どう使うべきか」をな学んでいくという構成になっています。

 この本で言われている社会学の特徴をひとことで表すならば、「常識をうまく手放す」ということでしょう。それが表れている最も代表的な論文の1つを紹介します。

 みなさんは「自殺」の原因は何だと思いますか。私はこの研究を見るまでは、個人の心理に原因があると思っていました。「精神が弱いから」といった、自己責任論のような考え方をしていました。しかし、19世紀後半のエミール・デュルケムという社会学者が発見したことは、自殺の原因が社会にあるということです。人は、精神が弱いから自殺するのではなく、社会的に孤立すると自殺するのです。この、「個人」から「社会」に視点を移して現象を分析するというのが、社会学の「常識をうまく手放す」が表れている1つの例です。

 しかし、ここで問題になってくるのが、「それってなんとなく正しいように感じるけど、本当に正しいの?」という疑問です。「そう考えることもできるけど、やっぱり個人の問題でしょ」と言われてしまったらどうしようもありません。そこで説得力を持たせるために出てくるスキルが、データを扱う能力です。

 社会学で扱うデータは実に多様です。文献データ、インタビューデータ、観察データ、統計データなど、様々なものを扱います。「〇〇と思い込まれていたけど、過去の資料をよく読んだら実は違った」、「〇〇と思い込まれていたけど、インタビュー・観察をたくさん行って分析してみたら実は違った」、「〇〇と思い込まれていたけど、アンケートをとって分析してみたら実は違った」というように、根拠(エビデンス)をもって暴き出していく能力が社会学を学んで身につくスキルだと言えるでしょう。

進路選択に悩む生徒・学生たちへ

 このコラムで紹介したテーマの他にも、教育社会学にはたくさんのテーマがあります。今回参照した『よくわかる教育社会学』の目次のページを見るとイントロ含めて19章あり、その下にたくさんの項が並んでいます。気になるテーマがあればぜひネットでもいいので調べてみてください。後悔のない進路選択のためにも、下調べは少しでも入念に行っておくに越したことはありません。その上で教育社会学を学んでみたいと思っていただけたら嬉しい限りです。

 

【『よくわかる教育社会学』の章立て】

イントロダクション

学説史

学校のある社会

階層と教育

マイノリティと教育

ジェンダーと教育

教師の社会学

子どもの社会学

ライフコース

非行/逸脱・教育問題

教育改革

グローバリゼーションと教育

学校教育(初等・中等教育)

高等教育

労働市場へのトランジション

教育と経済

生涯学習

調査方法論

現実への関与

[表1 『よくわかる教育社会学』目次抜粋]

参考
  • 酒井朗・多賀太・中村高康(編),2012,『よくわかる教育社会学』ミネルヴァ書房.
  • 佐藤俊樹,2011,『社会学の方法−その歴史と構造』ミネルヴァ書房.
  • デュルケム(著)・宮島喬(訳),1985,『自殺論』中公文庫.
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