すぐ実践できる!「上手い教え方」と「上手い教わり方」

これでもあなたも説明上手?; 説明がうまいと思ったエピソード集

 みなさんの周りには「教える」・「教わる」場面にあふれています。生徒や学生であれば日常生活が「教わる」ことの連続ですし、学校の先生や塾の先生をやっていれば「教える」ことこそが仕事でしょう。また、学校や塾に直接かかわっているわけではなくても、「教える」・「教わる」の場面はたくさんあります。ビジネスマンであれば後輩育成の場面、子どもがいれば毎日のしつけも「教える」・「教わる」の関係で成り立っています。
 この「教える」・「教わる」の関係がここまでありふれたものであるからこそ、効果的な教え方・教わり方を身につけることは重要でしょう。「生徒の学力を伸ばすため」、「後輩に早く一人前になってもらうため」、「子どもをしっかり育て上げるため」にも効果的に教える技術を学びたい、「勉強ができるようになるため」「早く一人前の社会人として活躍するため」にも効率的に教わる技術を身に付けたい。このコラムではそんな方々に向けたコツを紹介していきます。

1 教えるのが上手い人の特徴・下手な人の特徴

 効果的に「教える」・「教わる」ための技術を身につけるためには、「教えるのが上手い人が、なぜ教えるのが上手いのか」を分析していく必要があります

では、教えるのが上手い人の特徴はなんでしょうか。具体的に考えていきましょう。

私がこれまでの人生で最も「教えるのが上手い」と思った人は、高校時代の数学の先生です。彼の授業を受け終わったときは毎回、「力がついた」と思わずにはいられませんでした。実際に彼の授業のおかげで、数学に対する苦手意識もなくなりました。

その授業を今さら分析すると、

  1. 授業のゴールを初めに提示してくれる
  2. 新しい公式が出るときは解き方を初めに見せてくれる
  3. 初歩から応用までの流れがスムーズ
  4. 具体例がわかりやすい

といった特徴がありました。この裏返しが下手な人の特徴でしょう。学習者の観点からまとめると表1のようになります。

特徴

具体的には

これがないと

①ゴールの提示

授業のゴールを初めに提示してくれる

何を学んで帰ったらいいかわからない

②手本の提示

新しい公式が出るときは解き方を初めに見せてくれる

何をしていいかわからない

③飛躍のない構成

初歩から応用までの流れがスムーズで置いてきぼりにされない

つまずくとついていけなくなる

④巧みな具体例

具体例がわかりやすい

抽象的な理解になり使いこなせない

[表1 効果的に教えるための確認項目と内容]

2 同じ授業でも人によっては「つまらない」と感じるのはなぜ?

 しかし、この先生の授業に対して「つまらない」という生徒もいました。当時いっしょに「数学できない同盟」を組んでいたAくんも、数学では絶対に敵わないと思っていたBさんも「つまらない」と言っていました。なぜでしょうか。

 AくんとBさんの言っていた「つまらない」は意味合いが違うと思うのが自然でしょう。おそらくAくんの言っているのは「わからなくてつまらない」・「できなくてつまらない」といった意味合いでしょうし、反対にBさんが言っているのは「レベルが低くてつまらない」といった意味合いでしょう。微妙な数学レベルの違いから、同じ授業に対する感じ方は変わってきます。

 そうなれば、「教えるのが上手い人の特徴」にもう一つ項目を追加しなくてはなりません。それは、「⑤難易度設定」です。私が塾講師のアルバイトを始めたとき、先輩講師からよく「生徒が7割できるレベルを保ちなさい」と言われました。これは人間が最も心地いい難易度だと感じる目安であり、なおかつ力がつく難易度の目安のようです。教える立場にいる人は常に「この人はどこまでわかって、どこまでわからないんだろう」を常に意識し、難易度が「7割できる」の状態を保つ必要があります。

[図1 授業のレベルと受け手のレベル]

3 難易度設定って何をすればいいの?

 難易度の設定に気をつけなさいと言われて、「はいそうですか」と設定できる人は初めから教えるのが上手い人ですよね。たいていの人はできないのが普通です。難易度の設定をうまくやるために何を意識すべきか、すでに世の中にある理論に合わせて考えていきましょう。

 教育学の分野の中で「どうしたら効果的に教えることができるのか」を研究したものの中に、「COMPASS」というものがあります。Componential Assessmentの最初の方の文字を取って名付けられた、数学の学力・学習力を診断するテストです。この研究では、数学の力を「方程式」や「関数」、「ベクトル」といったような、みんなが想定するような分け方をしていません。少々硬い言い方になりますが、

  • 数学的概念に関する知識(数学特有の用語や考え方がわかっているか)
  • 図表作成による表象形成(状況を図などを使って整理できるか)
  • 計算の迅速な遂行

といった領域横断的な力に分けられるそうです。(市川ほか、2009)つまり、どの範囲を学習しても、共通して同じような能力が試されていると考えることができます。

 この研究が教えてくれることは、数学に限った話ではありません。「わからない用語が出てきて内容が頭に入ってこない」、「早すぎて理解が追いつかない」、「新しいことが多すぎて整理しきれない」といったことでつまずいた経験は誰しもあるでしょう。難易度の設定のために意識すべきは

  • a語彙レベルの調整(聞く側が理解できる用語を使う)
  • bスピードの調整(聞く側の頭の回転に合わせる)
  • c情報量の調整(新しいことは聞く側が無理なく整理できる量に抑える)

の3つになります。

 整理すると、効果的に教えるために必要なことは表2のようになります。これらを意識しながら、教えるスキルを上達させていきましょう。

【効果的に教えるための確認事項】

①ゴールの提示

②手本の提示

③飛躍のない構成

④巧みな具体例

⑤難易度設定

 a語彙レベルの調整

 bスピードの調整

 c情報量の調整

[表2 効果的に教えるための確認事項]

4 教わるのが上手い人の特徴・下手な人の特徴

 さて、ここまでは効果的に教える技術について解説しましたが、ここからは逆に効率的に教わる技術についても解説していきます。ここまで丁寧に読んできてくださった人たちは薄々察しているとは思います。読んでない人はすぐ上にある【効果的に教えるための確認事項】だけでも目を通してきてください。

効率よく教わるには、この確認事項を自分でも確認すればOKです。

個別指導や上司と部下のやりとりなら1対1なので簡単に質問できると思います。先生や上司がいちいち確認してくれるとは限りませんし、つまずいた瞬間を一番よくわかっているのは教わる側でしょう。

具体的には、「今日のゴールはなんですか?」、「やり方がわからないのでお手本を見せてください」、「○がなんで□になるのかわからなかったのでもう一回お願いできますか?」、「イメージがわかないです」、「〇〇ってどういう意味ですか?」、「ちょっと早いです」、「多すぎるので一旦整理させてください」といったことを確認するようにすれば、学習の効率は一気に高まります。集団ではその場で確認することはできませんが、自覚しているだけで効果は大きく変わるでしょう。

特徴

教える側の動き

教わる側の対策

①ゴールの提示

授業のゴールを初めに提示してくれる。

何を学んだらゴールなのか確認する。

②手本の提示

新しい公式が出るときは解き方を初めに見せてくれる。

できない・わからない時はやり方を見せてもらう。

③飛躍のない構成

初歩から応用までの流れがスムーズで置いてきぼりにされない。

説明がわからなかった部分を聞く・覚えておく。

④巧みな具体例

具体例がわかりやすい。

「例えば?」と聞く。「例えば?」を考えてみる。

⑤a語彙レベルの調整

理解できる用語を使う。

わからない用語は確認する・調べる。

⑤bスピードの調整

頭の回転に合わせる。

スピードの調整を求める。

⑤c情報量の調整

新しいことを無理なく整理できる量に抑える。

一旦止まってもらう・整理を手伝ってもらう。

[表3 教える側のすべきこと・教わる側のすべきこと]

5 まとめ

このコラムでは教えるのがうまかった人の特徴から、効果的に教えるための技術・効率よく教わるための技術をまとめました

より専門的なことを学びたい方はこちらの本を参考にしてください。本コラムを通じて、教える立場になったときも教わる立場になったときも実りある時間を過ごせるようにしてください。

参考

  • 市川伸一, 南風原朝和, 篠ヶ谷圭太/2009/数学の学力・学習力診断テストCOMPASSの開発, 認知科学, 16, 333-347.
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