宮城教育大学、通称「宮教大」は仙台市内にある国立の教育大学です。大学の最大の特徴は教員を目指し、実際に教師となる学生が多いことです。
更にその中でも東北地方の学校などに就職する人が多く、宮城県のみならず東北地方の教育を支え続けてきた大学と言えるでしょう。自然豊かなキャンパスでは少人数教育に基づくきめ細かい指導を行っており、アットホームな雰囲気も特徴的です。
今回はそんな「宮教大」について調べていこうと思います。
1965年に設立して以降多数の教員を輩出しています。また地域貢献活動も盛んに行っているのが特徴です。
大学が設置されたのは1965(昭和40)年です。1968(昭和43)年に仮校舎から現在のキャンパスに移転され、また1996(平成8)年と2007(平成19)年に大きな学部・課程の改編があり今の3教員養成課程編成になりました。
大学のミッションとして「教育の未来と子どもたちの未来のために」を掲げ、教育目的を「教員養成に責任を負う大学として、幼稚園・小学校・中学校・特別支援学校等における優れた資質・能力をもった教員を養成すること」としています。また、教育学部の目的は「豊かな教養を与えるとともに専門の学芸を教授研究し、知的・道徳的・応用的能力を展開させることで有為な教育者を養成し、学術の深奥をきわめて文化の進展に寄与すること」です。[i]
例年多くの教員を輩出しており、2018年度の「教員就職者が多い大学ランキング」(東洋経済オンライン)[ii]では17位となりました。更に東北地方では1位です。
地域に根付いた大学として、地域貢献も盛んに行っています。近隣の仙台市や気仙沼市、岩沼市、栗原市、宮城県と連携協力して様々な活動を行っており、近隣の住民のための公開講座や申し込みのあった学校に教職員を派遣する「出前授業」などにも取り組んでいます。
教員だけでなく政界や芸能界など各界で卒業生が活躍しており、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで知られる漫画家の荒木飛呂彦さん(中退)や女優の奥山かずささんなどを輩出しています。
学部は教育学部のみが置かれ、その下に3教員養成課程が設置されています。仙台市内の自然豊かなキャンパスで、優秀な教員を育成するために特徴的な教育が行われています。
教育学部の下に初等教育教員養成課程、中等教育教員養成課程、特別支援教育教員養成課程の3つが置かれています。また、各教員養成課程には以下のコース・専攻があります。
初等教育教員養成課程…発達・教育系(幼児教育コース、子ども文化コース、教育学コース、教育心理学コース)
言語・社会系(国語コース、社会コース、英語コミュニケーションコース)
理数・生活系(数学コース、理科コース、情報・ものづくりコース、家庭科コース)
芸術・体育系(音楽コース、美術コース、体育・健康コース)
中等教育教員養成課程…国語教育専攻、社会科教育専攻、英語教育専攻、数学教育専攻、理科教育専攻、技術教育専攻、家庭科教育専攻、音楽教育専攻、美術教育専攻、保健体育教育専攻
特別支援教育教員養成課程…聴覚・言語障害教育コース、発達障害教育コース、健康・運動障害教育コース
これらのほかに大学の附属の幼稚園・小学校・中学校・特別支援学校もあり、大学と提携して教育を行っています。
各課程の入学定員と学生数は以下の通りです。男女比はおよそ2:3とやや女子の方が多く、またほとんどの学生が宮城県を中心に東北地方出身のようです。
表1 入学定員と学生数
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
大学のキャンパスは仙台市内の青葉山地区にあります。最寄り駅である地下鉄東西線の「青葉山」駅から徒歩約7分で、「仙台」駅から20分以内というアクセスです。
また、「青葉山」の駅から大学の前までは市営バスも出ています(乗車時間約2分、150円)。仙台は坂道が多いので原付バイクで通う学生もいるようです。キャンパスの近くに飲食店や商業施設、遊ぶ場所はあまりないため、少し離れた東北大学の近くや仙台駅に行く学生が多くなっています。
広々として自然豊かなキャンパス内には教室棟や実習・実験施設、陸上競技場や体育館などスポーツ施設のほかに、図書館や講堂、食堂や売店の入る「萩朋会館」などがあります。更に附属の特別支援学校もこのキャンパスに併設されています。
附属の幼稚園・小・中学校は上杉地区にあり、こちらは仙台の駅前からバスで15分ほどの距離にあります。
この項では各課程について書いていきます。
初等教育の教員に求められるオールラウンドな学力と多様な発達段階に応じて子どもの成長を見守る指導力を養います。1年次から4年次にわたり系統的に積み上げる教育実習・それに関連した科目群により実践的な能力を養うことができるのも特徴です。[iii]
専攻の「教科」の専門科目を重点的に学ぶことで特定の教科に関する専門的な学力を身に付け、更に子どもから大人へと変容し始める生徒を適切にサポートする指導力を養います。
障害のある児童・生徒と向き合うことで、子どもたちの可能性を引き出し、また一人ひとり異なる願いや要望に的確に応えられる教員の育成を目指します。所定の単位を修得することで5つある特別支援教育領域の教諭免許状を取得できる全国有数の教員養成課程です。
最大の特徴は教師を目指す学生が多いということです。大学としても優れた教員の育成に全力を注いでおり、実際に卒業生の半分以上が教師となっています。
また地域社会に貢献できる人材を輩出しているのも特徴で、多くの卒業生が宮城県内を含めた東北地方各地で活躍しています。
きめ細かい少人数教育も特徴です。1学年の学生およそ350人に対して113名の教員がおり、教員1人あたりの平均学生数は3.1人という計算になります。学生と教員、そして学生どうしの距離も近いのでお互いに絆を深めることができるでしょう。
また全学必修科目として「環境・防災教育」や「特別支援教育概論」などが設けられており、現在の教育現場のニーズに応えられるような教師の育成にも励んでいます。
取得できる資格は以下の通りです。やはり教員免許の取得には最適な大学と言えるでしょう。
表2 取得可能な資格
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
名物行事は大学祭の「宮教祭」です。10月の中旬に2日間行われ、2019年度で第48回を迎えました。来場者数は毎年1200人以上で、大学附属の幼稚園や小・中学校、特別支援学校の生徒も訪れています。そのため豪華景品の当たるビンゴ大会やスタンプラリー、クイズ大会や縁日、トランプ大会など子どもも楽しめる体験型の企画がたくさん催されています。
また、サークルや職員の方など有志による模擬店や、写真部や美術系サークルによる展示、ダンスや音楽系サークルのパフォーマンスを楽しめるステージ企画も人気です。2019年度は自然フィールドワーク研究会によるヤギとのふれあい体験や研究室による理科実験などの企画もありました。
学生からの評価が高い授業としては、小学校の校長先生などを招き実際の道徳の本を用いながら道徳の授業・指導案について考える「道徳教育の研究」や、アメリカ文学を読みながらアメリカの文化について学ぶ「英米文化論」、お面を作ったり絵をかいたりして子どもの遊びや表現を学ぶ「表現の応用」、日本など様々な音楽の歴史を学ぶ「人間と音楽」などがあります。
そのほかにも教育大学ならではの授業がたくさん用意されています。小学校と連携を取りながら運動会や卒業式などの行事に参加し子どもと交流する活動(子ども文化コース)や、2週間オーストラリア・ブリスベンの小中学校で日本語授業の補助を行うことで大学で学んだ外国語教育理論を実践し、更に異文化交流や英語力修得もできる「海外総合演習」(英語教育専攻)、学生自らがロボットの設計・制作を行う「機械実験実習」(技術教育専攻)、繊維や糸づくりから布づくりまでを実習する「被服学実験・実習」(家庭科教育専攻)、大学構内を車いすを使って巡りながらバリアフリー環境調査を行い、車いす使用者の支援についても考える活動(健康・運動障害教育コース)などが特徴的です。
更に、校内の施設を利用した模擬授業や附属の学校と連携した教育実習も充実しているので、教師としての実践的な能力を身に付けることができるでしょう。
この章では入試情報について記していきます。入試制度改革に伴う詳細な変更事項についてはまだ発表されていませんが、大きくは変わらないでしょう。
専攻・日程によってはセンター試験得点率が80%近くになることもあり、十分な対策をして臨むことをお勧めします。
入試方式は一般選抜(前期・後期)と学校推薦型選抜(①・②)の2種類です。課程・コース・専攻ごとに採用されている入試方式が異なるので注意が必要です。
表3 課程・コースごとの入試方式
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
一般選抜は前期日程が2/25,26に、後期日程が3/12に行われます。
偏差値は初等教育教員養成課程の子ども文化コースや英語コミュニケーションコース、中等教育教員養成課程の国語教育専攻、特別支援教育教員養成課程の発達障害教育コース(Ⅰ型)などで高くなっており、センター試験の得点率はおよそ55%~75%ほどです。後期試験では80%近くになるコース・専攻もあります。
試験科目は以下の表の通りです。
表4 一般選抜の科目
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明記の上で許可)
学校推薦型選抜①は11月下旬に、②はその1週間後に実施されます。両方ともにセンター試験(共通テスト)を課さない方式です。
①は課程別の課題や出願書類、面接などにより評価され、芸術・体育系の集団面接にはコース独自の要素が含まれることがあります。
また②の英語教育専攻に出願する場合GTECやTOEFL等の試験の基準以上のスコアが必要です。英語教育専攻では出願書類と個人面接(英語読解や英語によるインタビューを含む)により、美術教育専攻では出願書類と課題(鉛筆デッサン)により評価されます。倍率はおよそ1.5倍~3倍ほどです。
難易度は同じ教育大学である福岡教育大学や東北地方にある弘前大学などと同じくらいでしょう。
学費は入学料が282,000円、授業料が年額535,800円です。これらのほかに学生教育研究災害傷害保険保険料として3,300円が、学研災付帯賠償責任保険料として1,360円(いずれも保険期間4年間)がかかります。
奨学金制度として日本学生支援機構(貸与・給付)や地方公共団体、そのほか奨学財団からの各種奨学金を受け取ることができます。
また、選考により入学料や授業料の免除(一部または全額)・徴収猶予の制度の適用を受けることも可能です。
学生寮は男子寮と女子寮「萩苑寮」の2つが設置されています。男子寮はキャンパス構内、女子寮は仙台市内水の森(大学まではバスと地下鉄で約1時間、原付バイクで約30分)にあり、1部屋(約8畳)あたり2名が同居します。ベッドや机、椅子、本棚などの家具が備え付けられており、寄宿料と寮費を合わせて経費は1か月あたり9,600円という安さが魅力です。
また食事は出ませんが、共同キッチンが備え付けられているため自炊が可能です。大学の食堂も朝・昼・夜と利用することができます。キッチンのほかに浴室や洗濯場、シャワー室も共用です。
自治寮なので共用部の掃除は当番制となっており、協調性や責任感などを養うことができます。また新入生歓迎会や寮祭、追いコンなどの行事もあり、寮生どうしの仲も深まることでしょう。
教員養成を目標とする大学であるため教員となる卒業生が最も多く、卒業生の半分以上が教員となっています。
平成30年度卒業生のうち60%が教員になっており、そのほか企業等への就職者が21%、公務員が5%となっています。
教員への就職状況を学校種別に見ていくと、小学校教員が66%で最も多く、次いで中学校(19%)、高校・特別支援学校(いずれも6%)、幼稚園(3%)の順番となっています。また就職先の学校を地方別に見ると宮城県内が69%と多くの割合を占めており、宮城県以外も合わせた東北各県への就職者が80%を超えています。
大学院等への進学者は例年8~10%ほどです。
大学院には専門職学位課程(教職大学院)として高度教職実践専攻が、修士課程として特別支援教育専攻と教科教育専攻が設置されています。学生数は合計約120名です。また修士課程の2専攻には以下の専修科目が置かれています。
特別支援教育専攻…特別支援教育専修
教科教育専攻…国語教育専修、社会科教育専修、数学教育専修、理科教育専修、音楽教育専修、美術教育専修、保健体育専修、生活系教育専修、英語教育専修
大学に附属する研究施設などとしては教員キャリア研究機構や防災教育研修機構などが設置されています。
サークルは数も多く、とても盛んに活動しています。体育会系のクラブ・サークルはサッカー部や剣道部、ダンスサークルなどがあり、硬式野球部は東北福祉大学・東北大学などと同じ仙台六大学リーグに所属しています。また演劇部や吹奏楽部、お笑い研究会、自然フィールドワーク研究会など文化系のクラブ・サークルも種類豊富でまた教育大学らしいサークルも特徴です。「入院児の教育を考える会」や模擬授業サークル、ビブリオバトルサークルなどが活動しています。他大学とのインカレサークルに所属している学生もいるようです。
ボランティア活動が活発なのも特徴の一つでしょう。上で述べたようなサークルの活動としてのボランティアのほか、大学としてもボランティア活動を推奨しています。学生は小学校や特別支援学校での学習支援ボランティアや託児ボランティア、障害者の余暇活動支援などを行っており、これらを通して子どもたちや保護者、現場で働く先生、障害を持つ方などと触れ合うことはその後の人生も活かせるとても貴重な経験になるようです。
海外留学のプログラムも用意されています。アメリカや韓国、スウェーデンなど7つの国と地域・10の学校と協定を結んでおり、毎年数名の留学生を派遣しています。半年~1年間の長期留学や2週間~1か月ほどの短期留学などの制度があり、10万円の奨学金が出るプログラムや派遣先の授業料が無料になるケースもあります。語学力を付けるだけでなく、外国語を使ったディスカッションや現地の学生との交流を行うことで、自分自身の視野を大きく広げることができるでしょう。
教員を目指す学生が非常に多い一方で、企業や公務員を志望する学生のための就職支援も非常に充実しています。キャリアサポートセンターが個別面談やボランティア活動・インターンシップの紹介・支援、就職ガイダンス・セミナー、就職試験対策などを実施しており、更にこのキャリアサポートセンターと所属するコース・専攻の教員が連携することで学生一人ひとりの適性に応じたキャリア形成の支援を行うことができるのです。
そして、大学の最大のメリットは教員を目指す環境が整っていることです。規模が大きくなく学生数も少ない大学なので一人ひとりと一緒に過ごす時間は長くなり、学生どうしの仲はとても良くなります。
更に先生との距離も近く、非常にアットホームな雰囲気だそうです。積極的にコミュニケーションを取れる環境であり、勉強のことだけでなく私生活や就職に関することまで相談することができます。もちろん教授1人あたりの学生数が少ないため授業中もきめ細かい指導を受けられるでしょう。
教師という目標を持っている人にとっては、同じく教員を目指す仲間と切磋琢磨し、ともに成長しあうことのできる最高の環境が整っています。
参考
[i] 宮城教育大学HP 「大学案内 大学概要 目的・教育方針」
[ii] 東洋経済オンライン 「キャリア・教育 就職四季報プラスワン 教員就職者が多い大学トップ200ランキング」
[iii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部」
[iv] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 幼児教育コース」
[v] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 子ども文化コース」
[vi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 教育学コース」
[vii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 教育心理学コース」
[viii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 国語コース」
[ix] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 社会コース」
[x] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 英語コミュニケーションコース」
[xi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 数学コース」
[xii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 理科コース」
[xiii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 情報・ものづくりコース」
[xiv] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 家庭科コース」
[xv] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 音楽コース」
[xvi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 美術コース」
[xvii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|初等教育教員養成課程 体育・健康コース」
[xviii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 国語教育専攻」
[xix] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 社会科教育専攻」
[xx] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 英語教育専攻」
[xxi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 数学教育専攻」
[xxii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 理科教育専攻」
[xxiii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 技術教育専攻」
[xxiv] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 家庭科教育専攻」
[xxv] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 音楽教育専攻」
[xxvi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 美術教育専攻」
[xxvii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|中等教育教員養成課程 保健体育専攻」
[xxviii] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|特別支援教育教員養成課程 視覚障害教育コース」
[xxix] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|特別支援教育教員養成課程 聴覚・言語障害教育コース」
[xxx] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|特別支援教育教員養成課程 発達障害教育コース」
[xxxi] 宮城教育大学HP 「学部・大学院 教育学部|特別支援教育教員養成課程 健康・運動障害教育コース」