京都女子大学、通称「京女」は関西を代表する女子大の一つです。大学としての最大の特徴は仏教の大学であることです。そのため仏教精神にもとづき精神面の教育、品位を高めるような教育を重視しています。「仏教の大学」と聞くとなんとなく古臭く堅苦しいイメージがあるかもしれません。しかしこの大学では京都の歴史を活かしつつ現代の変化に応じた教育が行われています。清水寺にも近いこの大学ではどんな生活が送れるのか、この記事で見ていきましょう。
京都女子大学は前身となる学校の創立から100年以上経つ歴史ある大学です。仏教精神に基づく人間教育に重きを置いており、品位ある女性の育成を目指しています。その一方で女子大として初めて法学部を設置するなど近年は女性リーダーの養成にも力を入れています。
京都女子大学の前身は1899年に甲斐和里子によって創設された「顕道女学院」です。その流れを継ぐ文中女学校が合併・改称を経て1920年に京都女子高等専門学校となり、戦後の1949年、新制京都女子大学となって文学部と家政学部が設置されました。その後学部・学科は改編されながら現在に至ります。
1899年の顕道女学院創立当初から仏教精神に基づく女子教育の実践を目指しており、建学の精神を「親鸞聖人の体せられた仏教精神にもとづく人間教育」[i]としています。そしてこの精神に基づき、自己中心にならずすべてのいのちを平等に扱う豊かな人格を養うことが学園としての教育理念です。大学の人材養成・教育研究上の目的としては、品位ある女性人材や宗教に対する正しい理解・批判力を持った人材、広い教養と高い専門的知識を持った人材、主体性・協調性を持ちながらもリーダーシップを発揮できる人材の育成をあげています[ii]。
仏教研究・仏教教育には力を入れており、タイ王国の王妃も訪日時にはこの大学を訪問しています。(タイの大学との交流は今も続いています)高校や他大との連携や産官学・地域連携にも積極的であり、ファミリーマートや大塚食品との共同開発、団地リノベーションプロジェクトへの学生の参加、大学が所在する京都市東山区との連携活動などを行っています。また、2011年には日本の女子大学として初めて法学部を設置しました。
卒業生は多様な分野で活躍を見せています。政界では衆議院議員で社会民主党などの党首を務めた土井たか子さん、文学界では直木賞も受賞した作家の山崎豊子さん、芸能界では女優の中村玉緒さんなどがここ京都女子大のOBです。
京都女子大学には4学部9学科が設置されています。また教育学科と現代社会学科には専攻が設置されていますが、これらは入学試験時から分かれています。キャンパスは清水寺など観光地にも近い京都市内にありその地の利を活かした授業も行われています。また少人数制の授業や様々な資格取得支援も特徴です。
文学部、発達教育学部、家政学部、現代社会学部、法学部が設置されています。各学部に置かれている学科・専攻は以下の通りです。
各学部・学科の定員は以下の通りになります。例年定員よりはやや多い人数が入学している傾向にあります。
表1 各学部・学科の定員
文学部 | 385 |
国文学科 | 130 |
英文学科 | 125 |
史学科 | 130 |
発達教育学部 | 350 |
教育学科教育学専攻 | 95 |
教育学科養護・福祉教育学専攻 | 60 |
教育学科音楽教育学専攻 | 35 |
心理学科 | 55 |
児童学科 | 105 |
家政学部 | 220 |
食物栄養学科 | 120 |
生活造形学科 | 100 |
現代社会学部 | 290 |
現代社会学科現代社会専攻 | 200 |
現代社会学科国際社会専攻 | 50 |
現代社会学科情報システム専攻 | 40 |
法学部(法学科) | 40 |
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明示のうえで許可)
キャンパスは東山にあり、その他にグラウンドと学園が所有する森林があります。東山キャンパスは京都市東山区にあり、近隣には清水寺や三十三間堂などの有名な観光地があります。最寄り駅である京阪電車の七条駅から徒歩15分ほど、京都駅や阪急線の河原町駅からはバスと徒歩を合わせ15~20分ほどで、JR京都駅と四条河原町から直通バス(有料)が運行しています。ただ坂が多く夏場などは通学がきつく、周囲は観光地であるため渋滞も起きるようです。広大なキャンパスには歴史ある校舎が多いですが、近年新校舎や新図書館が建設されており古い建物でもトイレなどの設備は綺麗なようです。食堂もありますが昼休みなどはとても混雑するようで、更に周囲にコンビニやスーパーマーケットがないため少し不便だという声もありました。
京都市西京区にある大野原校地の「総合グラウンド」はキャンパスからバスで40分ほどの場所に位置し、手目的グラウンドやテニスコート、アーチェリー場や弓道場などが揃っています。また大学から北へ車で1時間半ほどの場所に「京女の森」があります。約25ヘクタールの自然林の中には珍しい植物も含めた手つかずの自然が残っており、多くの学生が自然調査・観察に訪れます。
ここでは各学科・専攻について詳しく記していきます。
文学部
発達教育学部
教育学科
家政学部
現代社会学部
法学部:日本の女子大で初の法学部として2011年に開設されました。
講義の特徴としては少人数制の授業が挙げられます。1回生から少人数でのゼミ授業を導入している学科も多く、きめ細かい指導を受けられることができます。またディスカッションやプレゼンテーションを通してコミュニケーション能力や主体的に学ぶ力を養うことができる他、4回生での卒業研究の良い準備にもなるでしょう。
資格については、3.4の学科の章でも少し触れたように学部・学科によって様々な資格の取得支援を行っています。取得できる資格の一部を以下に記します。(学部・学科の記述については省略します。)
京都女子大学では学生の教養を深めるために1年を通して様々なイベントが実施されており、中には京都ならではの古典文化に触れる企画や仏教にまつわる行事もあります。京都ならではのものとしては古典芸能(鴨川をどり)鑑賞会や平安神宮での薪能、和雑貨づくり体験、京友禅染風呂敷づくり体験、文化財特別拝観、歌舞伎鑑賞会など、仏教にまつわる行事としては新入生本願寺参拝や親鸞聖人降誕式、比叡山での日帰り研修会、本願寺書院拝観などがあります。その他にもスポーツ大会や保津川ラフティング体験、スノーボード・スキー教室といった身体を動かすものや、料理教室やマナーアップ講座、ゆかた着付け教室、ミュージカル鑑賞なども開催されています。
大学最大の名物行事は学園祭の「藤花祭(とうかさい)」です。11月の上旬に開催され、今年で第71回を迎えます。今年はかまいたちや霜降り明星などの人気お笑い芸人を招待して開催される「吉本お笑いライブ」や、昨年は桐谷健太さん、今年は田中圭さんといった有名俳優によるトークショーが目玉企画です。他にも音楽ライブの「藤フェス」や、京大とのコラボのオリジナルグッズ(付箋とボールペン)の販売などの企画が行われます。
学習面では、独特な授業が展開されています。文学作品の舞台となった京都や近郊の場所・古跡について自分で文献調査や現地調査を行い発表する「基礎演習A」(文学部国文学科)、近代化を象徴する建築や産業遺産を訪れ明治以降の京都の産業化・都市化の経緯を検証する「日本史特殊講義」(文学部史学科)、京都の美術館や建物、企業、祇園祭を実際に見て生活造形の現場を見学する「生活造形基礎演習」(家政学部生活造形学科)は京都ならではの授業と言えるでしょう。その他にも、さまざまな病気に合わせた食事献立を作成・調理し栄養食事療法を学ぶ「臨床栄養学実習」(家政学部食物栄養学科)、実際の刑事事件をもとに裁判に必要な書類を作成し裁判官・弁護士等の役割を演じる「模擬裁判」(法学部法学科)、実際に福山市で起きている問題を対象に事前学習と現地調査を行って社会調査法を実習形式で学ぶ「フィールド・ワークⅠ/Ⅱ」など特徴的で魅力的な授業が用意されています。最後に、1回生・3回生の通年で「仏教学」の授業があります。この授業ではお釈迦様の生涯などについて学びますが、月に一回礼拝をするそうです。仏教の大学ならではの授業と言えるでしょう。
この章では入試情報について簡単に記していきます。多様な入試方式が用意されており自分に合った方式が何なのかしっかり調べ、吟味して挑むことが重要でしょう。
入試方式には一般入試(前期・後期)、センター試験利用入試(前期・後期)、公募制推薦入試、AO入試があり、その他にも帰国子女入試と編入学入試もあります。
一般入試前期にはA方式・B方式・C方式があり、A方式・B方式の個別試験は京都も含め全国14都市で行われます。また公募制推薦入試は全国11都市で実施されます。
センター試験利用入試の前期試験は全学科で、後期試験は教育学科音楽教育学専攻と現代社会学科情報システム専攻以外の全学科で行われています。
一般入試前期のA方式は1/29と1/30の2日間試験があり、試験日は自由に選択できます。また2日連続で受験することも可能です。国語、英語に加え学科によって異なる1科目の3科目の試験を受けます。(英文学科は2科目のみ、音楽教育学専攻は音楽実技試験あり)B方式の試験日は1/31で、2科目を選択し受験します。科目選択の自由さが特徴です。C方式はB方式の得点とセンター試験2科目の得点を合算して判定します。B方式の受験者のみ出願できますが、B方式とは異なる学科・専攻に出願することも可能です。
一般入試後期の試験日は3/8です。全学科で国語と英語2科目のマークシート式試験を受けます。(音楽教育学専攻は音楽実技あり。食物栄養学科は理科系科目のセンター試験の得点を加点)ただし、募集人数は非常に少なくなっています。
センター試験利用入試の出願期間は前期が1/4~1/25、後期が2/15~3/9です。前期試験は学科・専攻が指定する3教科または5教科の得点を、後期試験は3教科の得点を利用して判定します。音楽教育学専攻では前期試験のみ実技試験が課されます。
公募制推薦入試はA方式・B方式があり、いずれも試験日は11/17で両方の方式に申し込むことが可能です。どちらの方式も調査書などによる書類審査の他に学科ごとの適正審査(国語・英語・数学などの基礎学力検査)が課せられ、A方式は書類審査を、B方式は適正審査を重視するのが違いです。音楽教育学専攻は音楽実技試験も必須になります。
AO試験の一次審査は8月末~9月上旬に出願し9/21に実施、二次審査は10/5に実施されます。一次審査では書類審査(高校での活動内容の他、学科によっては漢字検定や英検などの資格の有無)と小論文やグループディスカッションにより判定され、二次審査では主に面接によって判定されます。
学科ごとに偏差値を見ていくと、発達教育学部心理学科や家政学部食物栄養学科が高く、次いで法学部や家政学部生活造形学科、文学部英文学科で高くなっています。センター利用試験後期試験や推薦入試、AO入試は募集人数が非常に少なくなっていますが倍率が極めて高いということもありません。(もちろん学科によってばらつきはあり、音楽教育学専攻や食物栄養学科のAO入試、生活造形学科の推薦入試は非常に高くなっています。)しっかり対策すれば合格は難しくないでしょう。
(情報はすべて2019年度のものです。)
学費は学部・学科によって異なります。入学金、教育充実費は全学部一律で25万円ずつかかりますが、授業料には差があります。合計で初年度納入費は140万円前後です。また、2年次以降の学費は1年次と少し異なります。詳しい内容については以下の表のとおりです。
表2 各学部・学科の学費
(髙橋作成、転載は名前・記事名を明示の上で許可)
奨学金制度に関しては大学独自の給付型奨学金があり、また日本学生支援機構奨学金や地方公共団体・民間団体の奨学金を給付・貸与いずれも受け取ることができます。大学独自の奨学金の概要は以下の通りです。
この他に、大学と提携契約を結んでいる金融機関(滋賀銀行とオリエントコーポレーション)を利用した教育ローンの制度もあります。生活・学業に必要な様々な費用について有利な状況で融資を受けることが可能です。
学生寮は「東山寮」と「紫金寮(しこんりょう)」の二つがどちらもキャンパス内にあります。紫金寮は平成29年新築の新しい寮で、東山寮も平成29年にリニューアルし綺麗で整った設備が魅力です。入寮費はいずれも6万円で、寮費は東山寮が26万円、紫金寮が32万4千円、食事は出ないので食費は別途で必要になります。特徴としては起床時間(7時)や門限(22時)などの規則があること、毎朝礼拝をすることが挙げられます。また1部屋あたり3人が暮らし、寮生のためのイベントも開催されるのでコミュニケーション能力や協調性を養うことができます。食事は共用のキッチンで自炊するか学内の食堂で食べる人が多いようです。
就職の強さは京都女子大の特徴です。4年間を通したキャリア支援により2018年度の就職決定率は99.1%に上り、関西の女子大の中でもトップを争う数字になっています。
就職率の高さだけではなく、就職先となっている一般企業のうち従業員が500人以上の大企業の割合が50%以上になっているのが特徴です。卸売・小売業や金融・保険業、教育・学習支援業、製造業など多岐にわたる業種の企業にOGを輩出しており、国家公務員も含む公務員や教員・保育士になる卒業生もいます。
充実した就職支援がこの高い就職率を支えており、進路指導ガイダンスや企業担当者によるセミナーなど年間80回以上のイベントが開催されています。中でも多くの学生が参加する「就活力1日研修」は目玉行事の一つで、就職活動に関する基礎知識からメイク術まで幅広く学ぶことができます。更に、全国21府県と就職協定を結んでおり、U・I・Jターン就職の支援も行っています。
大学院への進学者はそれほど多くありませんが、文学部史学科、旧教育学科心理学専攻(現心理学科)、家政学部食物栄養学科などの学生が大学院に進んでいます。進学者の中では他大学院に進む人が京都女子大学大学院に進む人よりも倍以上多くなっています。
大学院には文学研究科、発達教育学研究科、家政学研究科、現代社会研究科、法学研究科の5つの研究科が置かれており、学生数は全体で80人程度と規模は大きくありません。各研究科には以下の専攻が設置されています。
学習面でのメリットは「少人数教育」「京都というロケーションを活かした教育」「資格取得の支援」が挙げられるでしょう。これらは3章「学部・学科」の項でも触れましたが、1つ目については多くの学科・専攻で初年度から少人数ゼミ授業が行われていること、2つ目は一部学科で京都の歴史的遺産を実際に体験することで学べる授業が展開されていることが特色です。高い就職率もメリットの一つと言えます。充実した就職支援はもちろん、産学官連携や地域連携にも積極的に取り組んでいるため大学所属時から社会の仕組みについて知れること、また社会人とのかかわりが持てることで将来について実感を伴って考えられるのではないでしょうか。その他にも、蔵書数約82万冊と女子大トップクラスの規模を誇る図書館や学科のニーズに応じた多数の実習室といった研究施設の充実、清水寺などの歴史的遺産に近い立地の雰囲気の良さ、大学が主催するイベントの多さなども特長です。
京都女子大学には文化系、体育会系、同好会など約75(全国の女子大でも有数の数字です)のクラブが活発に活動しています。文化系では茶道部や音楽系部活の他、能楽部や古美術研究会(京都の寺社仏閣をめぐります)やアパレル企画製作部(年に4回のファッションショーをクリエイターやスタッフ、モデルまで全て部員の手によって開催します)など珍しいものもあります。また体育会系は学内最大規模である「京炎 そでふれ!京小町」(各地のお祭りに参加してオリジナルの演舞を披露し、沢山の人に京都を知ってもらうことを目的としています)などが活躍しています。部活動に対する補助金の割合が他の大学と比べても大きいようで、大学がとても協力的で積極的な活動が可能になっています。サークルは他大、特に京大とのインカレサークルに入り交友関係を広げる学生が多く、恋愛も京大生とが多いそうです。ただし、友人関係で言えば女子大であり恋愛などで関係がこじれることが少ないため友情は深くなりやすく、またゼミ授業やグループワークなどを通して友達もできやすいとの声がありました。女子しかいないからこそ周りに気を遣うことなく、伸び伸びとした雰囲気が流れているのではないでしょうか。
参考文献
[ii] 京都女子大学HP 「人材養成・教育研究上の目的」より抜粋
(以上10/15閲覧)
[iii] 京都女子大学HP 「学部一覧 国文学科 学びと特長」
[iv] 京都女子大学HP 「学部一覧 英文学科 学びと特長」
[vi] 京都女子大学HP 「学部一覧 教育学科教育学専攻 学びと特長」
[vii] 京都女子大学HP 「学部一覧 教育学科養護・福祉教育学専攻 学びと特長」
[viii] 京都女子大学HP 「学部一覧 教育学科音楽教育学専攻 学びと特長」
[ix] 京都女子大学HP 「学部一覧 児童学科 学びと特長」
[x] 京都女子大学HP 「学部一覧 心理学科 学びと特長」
[xi] 京都女子大学HP 「学部一覧 食物栄養学科 学びと特長」
[xii] 京都女子大学HP 「学部一覧 生活造形学科 学びと特長」
[xiii] 京都女子大学HP 「学部一覧 現代社会学科 学びと特長」
[xiv] 京都女子大学HP 「学部一覧 法学科 学びと特長」
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